研究内容

高分子やコロイドといったソフトマテリアルを対象に、

今までにない計測装置を開発し、
今まで見ることができなかった構造を見て、
今までにない物質・材料開発につなげる
ことを目標に研究を行います。

開発した装置

顕微動的光散乱装置

従来の動的光散乱法は、透明な試料の測定に限られていました。
透明でない試料には、白濁している試料と吸収の強い試料の2種類が挙げられます。
牛乳のように白濁の強い試料の場合は、入射光が内部で何度も散乱されてしまいます。
基本的に動的光散乱では多重散乱を無視した解析を行うため、
目で見て白濁している試料をそのまま測定することはできません。
墨汁(炭と膠(にかわ)でできたコロイド溶液)のように吸収の強い試料の場合には、
入射光・散乱光が内部吸収によって弱められるため、
散乱光をそもそも検出することができません。

不透明試料の動的光散乱は困難だった

この問題を解決するために、共焦点効果を利用した顕微動的光散乱法を開発しました。
共焦点効果は、焦点からの光のみを検出し、
焦点以外から発生した光をピンホールによって取り除くというものです。
本装置では、多重散乱光が焦点以外から侵入してくることに着目し、
ピンホールによって多重散乱を光学的に除去しています。
また、倒立型顕微鏡を用いることによって、
光が試料中を通る距離をマイクロメートルオーダーにまで抑え、
光吸収の影響を抑えることにも成功しています。

顕微動的光散乱の装置図

開発した装置を用いることによって、
牛乳や墨汁の原液を測定することに成功しています。
特に墨汁は、薄めることによって粒径分布が変化することも明らかとなり、
原液をそのまま測定することの重要性を示すことができました。
顕微鏡を用いることによってマイクロメートルオーダーの空間分解能も達成しており、
今まで試験管に封入した試料に限られていた動的光散乱法の適用範囲を広げています。

顕微動的光散乱の測定例(墨汁)

ソフトウェアベース動的光散乱装置

従来の動的光散乱法は、 試料に不純物が入っていては測定できないため、
試料によってはフィルターを通すなどの前処理が必要となっていました。
なお、ここでいう「不純物」は、おおよそ1 μm以上の大きさの物質を指します。
動的光散乱での測定対象である高分子やコロイドはnmオーダーの大きさで、
Brown運動をしているという前提が必要になるのですが、
これらの不純物はBrown運動をしないため、一般的な解析ができません。
散乱光の強度は大きいものほど強いので、
不純物を含む試料では、不純物からの解析不能な信号が観測されてしまうのです。

光散乱は大きい粒子に支配される

この問題を解決するために、不純物からの信号をデータの後処理で
除去できるシステムを開発しました。
一般的な動的光散乱は、散乱光子をオートコリレーターと呼ばれる検出器に送り、
時間相関関数をその場で計算するシステムとなっています。
この場合、不純物からの信号が入ると時間相関関数が大きく歪み、
今まで計算していた時間相関関数が全て無駄になってしまいます。
そこで、時間相関関数を後から計算できるように、
全散乱光子の到達時間を全て記録できるシステムを構築しました。
これはSoftware-based DLSとして報告のあるシステムです。

異常な散乱光をデータの後処理によって取り除く

開発したシステムを用いて、
直径200 nmと20 μmの粒子の混合分散液からの散乱光を記録し、
データの後処理によってノイズ除去を試みたところ、
200 nmの粒子からの信号のみを抽出することに成功しました。
これにより、動的光散乱の環境分析などへの応用も拓けると考えています。

ノイズ除去による時間相関関数の再構築例

動的ラマン散乱装置

従来の動的光散乱法は、 分子選択性がありません。
これは、動的光散乱で用いる散乱光がレイリー散乱光と呼ばれる
分子選択性のない光であるためです。
この問題を解決するために、分子選択性を持つ散乱光として知られる
ラマン散乱光を用いた動的光散乱システムを開発しました。
詳細はこちらの論文をご覧ください。

動的光散乱には分子選択性がない